60円45銭

創作のネタとかいろいろ

【駄文旧作】影

 私がその少女と出会ったのは、ある日の昼休みのこと。誰も寄り付かない校庭の片隅の木陰の中でだった。
 そこに何をするでもなく、遊んでいる子供達をただぼぅっと見ているだけの、変な子供だった。……もしかしたら、虐められてのけ者にされているのかも知れない。
 同じ校庭の片隅の、花壇の煉瓦に腰掛けていた私ははじめ、そう考えた。
 だが、暫く見ている内に、なにか様子がおかしい事に気付く。
「……でね、……が…………でしょ? ……うふふ」
 少女は会話していたのだ。
 時折微笑しながら、さも相手が存在するかのように間を設けたり、相槌を打ったりしながら。一人で話しているのだ。
 何とも不気味な光景ではあるが……可哀相に。あの少女はきっと、元から独り言を呟く癖でもあったのだろう。それが原因で周囲に気味悪がられ、友達が出来ないでいるのだ。
 私がいよいよ少女を憐れみ出した、その時。
 件の少女は不意にぽつりとこう漏らした。
「ところで、あなたはだぁれ?」
 驚いて少女を凝視する。
 気がつけば、活気溢れる校庭を見ていた筈の少女は、明らかに私の方を向き、見つめていた。
 ……そんなばかな。

「わかるよ。そこにいるのも、ずっと私の事見てたのも ……ね? 幽霊さん」
 そう言って、妖しく唇を吊り上げた少女の二つの黒い瞳は、確かに私の姿を捉えていた。

「……見えるの?」
「うん。くっきりと」
 嘘みたいだった。今まで誰にも見えやしなかったのに、気配すら感じて貰えなかったのに。
 なのにこの少女は、当たり前のように私を見て、会話している。じゃあ、もしかしたらさっきの独り言もどこかの霊と?
 こんな事は初めてだった。
 とっくに死んでいる私が初めて出会った、見える人……!

「そんなに目を輝かせないでくれるかなぁ。そういうの、どうも慣れないのよね」
「あ、あぁ、ごめんね。こんなの初めてだったから、つい……」
 柄にもなく興奮していたようで、恥ずかしくなった。顔面がかぁーっと赤くなるのがわかる。
 変なことだけれど、霊体でも赤面するのって不思議だと思う。心臓なんてとっくに無いのに。
 そうやって一人どぎまぎする私を、少女は変なものを見るような目で見つめていた。
「変なのー」
 というか、直接変て言われた。
「頼むから直球で変とか言わないでくれるかな……軽く凹むわ……」
「ん? んーん。違うよ。別にあなたが変とかじゃなくて」
「へ?」
「これだけ存在感バリバリでくっきりはっきり見える幽霊さんが、今まで誰にも気付いてもらえなかったってのが変だなぁと。私思ったの。みんなよっぽど鈍感なのかしらね?」

 曰く、今まで色んな霊を見てきたけど、ここまでくっきりしているのは始めてだとか。
「よっぽど現世への未練が強いのね」と少女は笑ったが……なんだかなぁ。

 その後は名前とか、何で死んだんだとか、地縛霊なのかとか、散々聞かれてしまった。
 しかし、今私が分かっているのは既に死んでいることと、ここに存在しているということだけ。生前の事なんか名前含めてさっぱり覚えていなくて、殆ど答えられなかったのが残念だ。
 と、そう思っていた所でチャイムが鳴った。

「あら。昼休み終わっちゃったわ」
「……そうみたいだね」
「まあいいか、また明日来るね。それまで成仏しないで待っててね! わかった?」
「それは……よくわかんないけど多分大丈夫……かな?」
 そもそもどうやったら成仏できるかわからないしね。
「そう。じゃあ、また……っと、そうだそうだ」
 数歩踏み出して、少女は思い出したかのように振り向き、

「私は七瓜。烏貝、七瓜だよ!!」

 そう言って、再び校舎に向かって走り出した七瓜は木陰から抜けた。
 私は小さくなっていく彼女をの背中を見送る。

 ……そして違和感。

 初めはそれがなんなのかわからなかった。けれど、見ている内に気付いてしまった。

 地面にある七瓜の影が、異様なまでに薄いのだ。

 ……いや、それだけじゃない。
 本当はもっと最初から気付いていた。話し掛けられたとき、いや、見掛けたときから気付いていた。
 七瓜の後ろには、常に七瓜にそっくりな、半透明で影のない少女が付き纏っていた事に。

 私には、その少女がたまらなく不吉に思えて、でも何かをしてやる術もなく。ただ見ていることしかできなかったのだ。


 それから一週間後。烏貝七瓜という少女は、静かにこの世から姿を消した。

*****
旧リアタイ連載:駄文外伝の外伝「影」より一部修正

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