墜ちて行く、墜ちて行く。
真っ暗闇の夜の中、煌々と輝く月を見下ろしながら。
墜ちて行く、墜ちて行く。
真っ暗闇の夜の中、底の見えない地上に向けて。
真っ逆様に堕ちていく。
足元に広がる満点の星と天の川。
宝石箱をひっくり返したような光景を、切り取ったように覆い隠す建物の影。
その影の中にあなたがいる。
屋上の手摺りから身を乗り出して、奈落の底へ堕ちていくわたしを覗いてる。
ぽっかりと黒い影のあなたは今。どんな表情をしているのだろう。
わからないままあなたが遠ざかる。
きっと地面はそう遠くない。
わたしは砕け、わたしは死ぬ。
頭から砕け、飛び散って死ぬ。
短い人生だったなあと、わたしは笑う。
恐怖を紛らわすための苦笑い。
あと何秒もない。あと何秒もない。
目を背けた地面にぶつかって爆ぜるまで。
もう一瞬もない。もう一瞬もない。
さようなら、世界。
さようなら、わたし。
さようなら、あなた。
覚悟を決めた最後の瞬間、わたしの背中に激痛が走った。
だけどそれは衝突で押し潰されるような痛みではなく、内側から食い破られるような痛みだった。
剥がれる、剥離する、剥落する。
わたしの中身がわたしの中から引き剥がされて抜けていく。
まるで羽化する昆虫のように。
わたしはわたしを抜けわたしから追い出されていく。
ああ、やめて!
わたしからわたしであることまで奪わないで!
叫びはもう声にならず、わたしはどんど?わたしの抜け殻から離されていく。
堕ちて行く、堕ちて行く。
真っ暗闇のその先へ、地面よりも深く暗い所へ。
堕ちて行く、堕ちて行く。
あの月明かりはもう見えない。
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2014. 8.14 雰囲気だけ
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