燃え盛る建物に走り寄り、通りすがりの男に止められる。
「だめだ、あんたまで死んじまう!」
「かまうものか行かせてくれ! 照子がまだ中にいるんだ!」
羽交い絞められながらも伸ばした手に炎が迫る。もうここまで火の手が。建物も長くはもたない。
「照子! 照子!」
早く逃げてくれ。そう願って彼女名を叫ぶも返事はない。姿も見えない。明け放した扉の向こうでがらがらと音を立てて廊下が崩れるのが見える。……ああ、時間がない、時間がない。
「離してくれ、僕は、僕が照子を助けるんだ!」
「無茶を言うな! 早くここから逃げるんだ、今を逃したら逃げ道はなくなる! 敵機もまた飛んで来るかもしれない!」
男は踏ん張る僕を強引にその場から引き離して担ぎ上げると、手近な壕へと続く道を、まだ生きている道を探ってがむしゃらに走り出した。
照子は以前として出てこない。廊下が、二階が崩落する。
僕は叫んだ。
咽喉が裂けんばかりに声を張って。
……けれども誰も答えなかった。
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彼の視点
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