60円45銭

創作のネタとかいろいろ

鬼斬

おおん、おおん。
どこかで何かが啼いてゐる。
哀れな聲で吼えてゐる。

あれは何か。
母者に問ふ。

憐れな鬼のなく聲だ。
母者は答ふ。

鬼は吼えてゐるのではないのか。
おそろしい聲ではないか。
再度問ふと、母者は困ったような顔をした。

そして少し考え込んだ後、私と兄者の手をしっかと握りしめ、優しく優しく言つた。

いいかい月静、刀星。
鬼はおそろしいものでは、けつしてないよ。
鬼は悲しいのだよ。
鬼はいつだって悲しいのだ。
けれども鬼は涙を流せないからね。
ああして暴れ狂ひ乍ら泣いてゐるのだ。
鬼は鳴いてゐるのだよ。
いいかい月静、刀星。
お前たちも、私もまた、あの鬼と同じ血を引いてゐる。
同じ血を引きながら、我らは鬼を斬らねばならぬ。
それでいて、いつかお前たちも、私も。斬ってきた鬼と同じ異形へと身を堕とすだろう。
だからね月静、刀星。
忘れてはならないよ。
鬼は、悲しいのだ。寂しいのだ。
どうしようもなく憐れなのだよ。
だから私たちは、鬼を、同族を殺すのではない。
鬼を救うてやるのだよ、と。

言ひて、母者は鞘から孔雀蝶の白刃を抜き放ち。
いつからか背後に迫り、しかし渇いた涙で泣き叫び続ける鬼に向かひ。

す、と。

一太刀で切り捨てた。

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