60円45銭

創作のネタとかいろいろ

空蝉の脱殻

 墜ちて行く、墜ちて行く。
 真っ暗闇の夜の中、煌々と輝く月を見下ろしながら。

 墜ちて行く、墜ちて行く。
 真っ暗闇の夜の中、底の見えない地上に向けて。

 真っ逆様に堕ちていく。

 足元に広がる満点の星と天の川。
 宝石箱をひっくり返したような光景を、切り取ったように覆い隠す建物の影。

 その影の中にあなたがいる。

 屋上の手摺りから身を乗り出して、奈落の底へ堕ちていくわたしを覗いてる。

 ぽっかりと黒い影のあなたは今。どんな表情をしているのだろう。

 わからないままあなたが遠ざかる。
 きっと地面はそう遠くない。

 わたしは砕け、わたしは死ぬ。
 頭から砕け、飛び散って死ぬ。

 短い人生だったなあと、わたしは笑う。
 恐怖を紛らわすための苦笑い。

 あと何秒もない。あと何秒もない。
 目を背けた地面にぶつかって爆ぜるまで。

 もう一瞬もない。もう一瞬もない。


 さようなら、世界。
 さようなら、わたし。
 さようなら、あなた。



 覚悟を決めた最後の瞬間、わたしの背中に激痛が走った。


 だけどそれは衝突で押し潰されるような痛みではなく、内側から食い破られるような痛みだった。


 剥がれる、剥離する、剥落する。

 わたしの中身がわたしの中から引き剥がされて抜けていく。

 まるで羽化する昆虫のように。
 
 わたしはわたしを抜けわたしから追い出されていく。



 ああ、やめて!

 わたしからわたしであることまで奪わないで!


 叫びはもう声にならず、わたしはどんど?わたしの抜け殻から離されていく。


 堕ちて行く、堕ちて行く。
 真っ暗闇のその先へ、地面よりも深く暗い所へ。


 堕ちて行く、堕ちて行く。

 あの月明かりはもう見えない。

*****

2014. 8.14 雰囲気だけ

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