60円45銭

創作のネタとかいろいろ

【駄文旧作】授名

 ――名を、授けよう。

 奇異なる白い体を持って産まれた貴女に名が与えられる事はなく。貴女は産まれてこの方白子と言う蔑称でしか呼ばれたことがなかっただろう。
 忌むべきモノとして遠ざけられ、危うきモノとして隔離され。
 地下の暗闇の中で食わず飲まずの、孤独と苦痛の三百年を過ごし。
 何度でも殺し、何度でも食らい、何度でも殺され、何度でも甦る。
 だが、それは決して怨みから来るものでは無いのだ。  唯ひたすらに思い、憧れ、欲し、求める。

 それらは全て、そんな純粋な望みを介し、最も原子的な欲望の一つ――食欲という形で昇華されるだけなのだ。

 だから、それは怨みとは根本で異なっている。
 つまり、貴女が食べたいと望む限り命は奪われ、食らわれ続けるだろうし、まだ食べる事を止めたくないと望む限り、何度でも甦り続けるに違いないのだ。

 そんな哀れな貴女の為に、俺は名を授けなくてはならない。

 貴女には名がない。
 貴女とその他大勢とを分ける、記号としての名が存在しない。
 貴女がどういうモノで、どう在るべきなのかを定義する、呪としての名がない。

 だからこそ、貴女はあんなにも曖昧で不安定なのだ。

 よって、これより貴女に名を与える必要がある。

 名は、ある存在が一番最初に与えられる最も短く最も強力な呪である。
 名は存在を縛り、正しい在り方へと導く鎖である。
 名もない存在が在るとするならば、それは石ころにすら劣り、神よりも恐ろしい存在に違いない。

 ああ、大姉上様。
 哀れで恐ろしく、歪で純粋で美しい化物よ。

 今こそ貴女に名を授けよう。
 名を持つ俺が、名も亡き貴女に。この世の全てに代わって授けよう。

 貴女の名は――

******
駄文・其ノ拾弐より 名前を授ける話。

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